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2012年09月25日

秋が旬の魚、甘鯛

甘鯛(アマダイ)の語源は呼んで字のごとく「甘い」から来ています。新鮮な時は、ほのかな甘みがある魚で、この名がついたとされています。名に鯛と付きますが真鯛とは何の関係もなく「あやかり鯛」の一種です。

京都ではグジと呼んでいますが、この言葉は「屈頭角(くずな)…頭が屈(こご)んでいる事から名付いたとか…?また「方頭角(くずな)」とも書き、頭が四角状をしていることを方頭(くず)と呼ぶことからとも言われていますが、いずれも形からきた命名されたようです。特に京都では若狭湾のグジ(アカアマダイ)は古くから珍重されていて、最近、京都府舞鶴市では、「丹後ぐじ」と言う名でブランド化に取り組んでいるようです。 

秋が旬の魚、甘鯛
       
産卵期は夏から秋で、この為、旬は晩秋から冬になります。甘鯛は白身で、肉が柔らかく身くずれして扱いにくいのですが、味が良いので料亭、料理屋、すし屋では高級魚として扱われています。  

日本近海には赤甘鯛・白甘鯛・黄甘鯛の3種類がいて、これは見た目の色から来ているようです。最も漁獲量が多く、流通しているのが赤甘鯛で、普通、甘鯛と言えば赤甘鯛の事を指します。(日本海側には赤甘鯛だけしか分布していない)
赤甘鯛…現在市場に出回っている大半はこの種である。成魚は40cmぐらいの大きさ。50~100mの深さに棲息し、干魚として利用が中心。
白甘鯛…50~60cmと3種類の中で最も大きく、最も浅い20~40mに棲息する。やや白みをおびたピンク系で尾ビレの模様が他の2種類と異なっているのも特徴。興津鯛ともいわれ、味のほうも一番良いとされる。刺身等に利用。
黄甘鯛…30~35cmと3種類の中で最も小さく、最も深い100~150mに棲息。全体が黄色がかり、目の下から上顎にかけて乳白色の線がある。

最も美味しいとされているのは白甘鯛で「白皮」とも呼ばれています。次に美味いのが赤甘鯛で、黄甘鯛はかなり水っぽく味が落ちます。甘鯛は水分が多いため傷みが早く、鮮度の見分け方は「赤」は腹が白い事、「白」は体表に輝きがある事、「黄」は尾びれの黄色がはっきりしている事です。(いずれも1㌔前後のものが美味い)       

秋が旬の魚、甘鯛

赤甘鯛は静岡県では「おきつだい」とも呼ばれますが、これは、「家康が駿府に暮らしていた時、奥女中の一人で興津の局が宿下りの土産に甘鯛の一夜干しを家康に献上したところ、いたく気に入り、興津の局が持ってきた鯛なので「興津鯛と名付けよ」といったのが名の起こりだそうです。その後、家臣達は静岡あたりで獲れる甘鯛を興津鯛と呼び、献上魚として重んじる様になったとか…?いずれにしても、徳川家康とかかわりの深い魚のようですニコニコ

江戸時代には、甘鯛のウロコには秀麗な富士山に似た模様があると伝えられ、この話が時の世の最大の権力者、家康という人物の輪郭とあい重なって、特に珍重された魚であったようです。
ちなみに、徳川家康が天婦羅の食べすぎで死んだと言う話は有名ですが、甘鯛の天婦羅だったと言うのが最も有力らしいですよ。  

秋が旬の魚、甘鯛 
干物にすることにより、グルタミン酸やリジンの旨味成分が増え、独特の風味が出て一段と美味になります。

興津鯛用の甘鯛はかつて駿河湾で獲れたようですが、今では浜名湖あたりの遠州灘で獲れたものを加工しており、1~2軒の業者が久能塩を用いて特別にその味わいを伝承しているのです。そして多くのものは山口県から11月下旬頃に入荷したものを加工しています。(地元ではこの生干しを上等の煎茶でお茶漬けにして食べているようです)
 
甘鯛の目利き…選ぶポイントととしは身に張りがあり、目が澄んでいるもの。また、小さいものはさらに脂ののり、味が今ひとつです。(甘鯛は獲れる時期や成長の時期によって、雌雄の割合が異なる特徴をもっています。小さいものには雌が多く、大きくなるにつれて雄がふえ、成長しきった大型は全て雄で、これは性転換によるものです) 

秋が旬の魚、甘鯛
       
料理法としては、一夜干しの塩焼きが一般的ですが、脂肪分が2.4%と低いことから、唐揚げは上品な味で食感もよく、他に酒蒸し、骨蒸し、昆布締め(三枚に卸したものを昆布で包んで3~4日間寝かせる)、椀物、煮物、甲煮など幅広く使われ西京味噌漬けは特に美味しいです。

上品な甘さとクセのない白身の魚なので、繊細な椀物にもよく使われ、薄い澄まし汁にほんのりとした紅の色合いがとても上品です。また、洋食の食材としても淡白な魚なので、ポアレやグリエ、ムニエルなど幅広く合います。 

秋が旬の魚、甘鯛
 
調理のポイント…キスと同様に水分が77%と高いため、身は柔らかいので下ごしらえで、薄塩で身を〆めてから料理にかかりると味もよく、身崩れもし難くなります。鮮度がよい場合は薄塩をしてから昆布〆にして刺身、和え物、酢の物、サラダ、茶漬けが美味しいです。また、皮は鱗を付けたまま、身からはがした物を油であけると美味しく、骨やあらで美味しい出し汁が取れます。

刺身…三枚に下ろした身の皮の方を火で炙ると美味しく食べられます。またフグ同様に薄造りにし、ポン酢に紅葉卸しと薬味の浅葱を入れて食べるのも美味しいですし、皮目の色が美しく、また、皮と身の間に旨みがあるので、鯛のように松皮造りしても美味しいです。 
  
兜酒…頭に薄塩をして、時間をかけて遠火でこんがり表面が焦げるぐらい焼き、まだジュウジュウといっている頭を大鉢に入れ、上から熱燗を一気に注いで作ります。(芳ばしい香りで辛党にはたまらない一品です)

更に、自家製でも一夜干しにする事で旨みが増し非常に美味しくなります。干物は絶品で高価な干物ではありますが、価格相応の旨さを感じさせてくれることでしょう。 
 
地方名…

興津鯛(静岡)…「おきつ」という奥女中が、家康公にこの魚を献じて賞味されたからとも、興津方面に多く産することからとも…。

タジ(福井・石川)、グジ(京都・和歌山)、グチ(富山)…これらの言葉は痘痕(あばた)の意味で、この魚の顔面の不定形斑紋を言う。

ビタ(高知)…鐚(びた)の意で、使物にならない下魚の意味。

鍋腐らし(淡路)…煮た鍋が腐るほどまずい魚の意味。

ブドウサン(田辺) …黄金虫の意味で呼ぶのらしい…昔は黄金虫を葡萄蚕(ぶどうさん)と呼んだようで、中国の唐時代には、葡萄酒を鬱金香と呼んで珍重したと言われ、鬱金とは黄金色のことであるから、魚体の黄金体をしたキアマダイ(黄甘鯛)と呼んだ。

バトウ(山口)…頭部の大きなことから「馬頭魚」の意味。

コビル・コビリ(山陰)…島根の方言辞典に「コビル・コビリ、甘鯛をいう」とあるらしい。また、「コビレルは発音不全で大きくならないこと」としてある。鯛と呼ばれる他の魚に較べ、小型であることの呼名でしょう…?


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Posted by きくいち at 10:19│Comments(0)旬の魚

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