初雪の後に獲れる「鱈」「たらふく」の当て字となった大食漢
魚偏に「雪」と書いて「鱈(たら)」…この字は元々中国にはなく、日本人が作った和製漢字だそうです
元禄時代に刊行された食材事典「本朝食鑑」に「鱈」という漢字の由来として「鱈は初雪の後に取れる魚ゆえ、雪に従う」とあります。
他にも「冬に美味しい魚だから」とも「身が雪のように白いから」とも言われています。ところがこの鱈、せっかく美しい文字を与えられていながら、解剖すれば、胃潰瘍が見つかるほどの大食漢
雑食で、あまりに何でも食べるので、昔は「大口魚」と呼ばれていて、餌となる対象は雑魚や魚介類や海藻など100種を超えます。そのため、量や数が多いことを指す「鱈腹(たらふく)」や「矢鱈(やたら)」という言葉の当て字に使われ「太っ腹」の語源となってきました(ちなみに「たらふく」の語源は「足りて腹が膨れる」が短縮された言葉だそうです)
鱈は他の魚に比べて水分量が多いため、身に臭みが出やすく、よほど新鮮でない限り、刺身で食べられることはありませんその代わり旨味も多く、定番の鍋物にすると、深い味わいが出てきます
調理の前には臭みを消すため、鱈の身に塩を振ってしばらく置き、にじみ出てくる水気をぬぐうと美味しくいただけますし、塩が身のたんぱく質を固めるので日持ちが良くなります
実は鱈は、加工品としての歴史が長く、蒲鉾や塩漬けの他、古くは干鱈(ひだら)が朝廷への貢物とされてきました
前述の「本朝食鑑」に、干鱈 (棒鱈)について「世間では角力(すもう)の好きな者が常食すると力が増すこと十倍」とあり、また「太守・刺史などの厨房には、新鮮なものを一匹丸ごとの姿で乾燥させて供納している」とあります。
干鱈には、極寒の地でそのまま干したものと、一旦塩漬けにしてから干したものがあるのは現在も同じです。干鱈を使ったレシピも数多く残っていて、そのまま炙って裂いて酒肴にする、といった単純なものから、塩の抜き方、乾物の戻し方に始まって、さまざまな材料と和えたり、さらにそれを煮て調理するレシピもあります。
おせちに欠かせない棒鱈も、干鱈から作り始めると、戻すだけでも一週間近くかかる上、慣れないとなかなかふっくらと柔らかく戻すのは難しいものですが、干鱈には生にはない深い味わいがあるため、鮮魚が流通するようになっても廃れずに残っているのでしょう
最近は、戻すところまで加工された「戻し鱈」の真空パック品が販売されているので、煮付けるだけで良く、ずいぶん楽になりました
生の鱈が調理して食べられるようになったのは、江戸時代からだと言われています。東北や日本海側で獲れた鱈は冬場、各地の氷室で氷を詰め直され、江戸の町にも運ばれてくるようになりました。新鮮な鱈は切り身が大きめで、透明感があり、張りがあること。汁がトレイに出ていたり、身が黄色っぽくなっているもの、皮の縁が反っているものは避けましょう
また、鱈には、良質のたんぱく質やカルシウムなどが多く含まれています。脂質が少なくヘルシーで、各種ビタミン類や亜鉛もあるため、骨粗鬆症や風邪を予防し、美肌効果もあります
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