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2013年06月02日

おすしの一個と一貫は違うのか…?

昨日の夜のことですが、お客様から握り寿司1貫は2個ではないかと質問がありました。
うちの店では握り寿司は1貫とは表示せずメニューには1個、2個と、個数での表示を心がけています。(お好みメニューでは、通常は1個ずつお出ししている)
握り寿司1貫とは1個なのか2個なのか今日はその話をしましょう。

江戸前の握り寿司は、ひとつふたつとは数えません。一貫二貫と勘定します。これはなぜでしょうか?握り寿司は、江戸時代に屋台で売られたのが始まりで、当時の寿司は大変大きくて丁度一文銭を千枚集めたほどの嵩(かさ)が有ったそうです。

おすしの一個と一貫は違うのか…?

江戸時代、当時流通していた穴のあいた銭96枚を緡(さし)などの紐状のもので、まとめ100文(銭さし百文、通し百文)として通用し、これを10個まとめて輪にした960文が1貫(銭さし一貫、通し一貫、1000文)として通用していたようです。
この通し100文の重量が360gであり、当時一般的だった鮨とほぼ同じ重量であった事から、当該鮨を景気付けて「一貫鮨」と呼んでいたと言われています。その際の鮨は現代の押し寿司の様なものであり、鮮魚の保存技術に乏しい時代でもあったため、大変贅沢な縁起物と考えられていました。また、それは寿司飯の上に9種類あまりのネタを載せた大きな食べ物であったとも伝えられています。

江戸前の握り寿司が誕生したのは、今から180年ぐらい前、文政年間と言われています。それまでは関西風の押し寿司が一般でした。文政年間に、「一貫鮨」を江戸両国の華屋与兵衛が、より気軽に、各々が好きな部分(好きなネタ)だけを食べられるようにとネタ1種類と、それに対応する寿司飯の分量に分けて(40g×9)出したところ、それが支持を得たと言われています。当時一般的となったこの分量を、一貫鮨にあやかり、貫という助数詞を付加して寿司の分量単位における「1貫」であると定め、多くの寿司職人や消費者の合意を得て確定していったのだそうです。

ただしこれは、公式な銭の単位である「貫」とは少し意味が異なります。
ご承知のように江戸時代は、金銀銅の3種の素材の貨幣が流通していました。金は高級武士や大名、それらとつき合う商人が使います。銀は普通の商人や下級武士が使います。銅は主に職人など庶民が使ったようです。江戸初期から中期まで、おおむね一両が四貫だったそうです。一文銭が4000枚ほどです。この「貫」は握り寿司の「貫」よりも100倍ほども大きい単位ですから…。

それにしても、江戸時代の握り寿司は1個40gもあって、おにぎりのような大きさですね…?現代の握り寿司は18~20g位で、せいぜい大きくても25gですから…。江戸時代の握り寿司は、今のものよりずっと大きく、二個、三個でお腹が一杯になったそうです。

そもそも、なぜ、1貫と言うのか、「かん」の語源は諸説あって定かではないようです。海苔巻きや棒寿司などの巻寿司1つを「1巻」と数えたことからという説もありますし、重さの単位「貫」から転じたという説などがあります。しかし、1貫=3.75㎏にもなってしまって、こんなに大きな握り寿司はありえないでしょう…。

話は変わりますが、握り寿司は2貫が一緒に出されることが多いですよね。回転寿司でも一皿に2貫ずつ並んでいます。これは、昔、大きなネタでひとつ握り、二つに切って出した名残りだそうです。なお、「かん」は「巻」だとする説もあるらしいのです。寿司を握る手つきは忍者が印を結ぶのに似ています。忍術の巻物を連想して「巻」になったというわけだそうです。 
 
諸説色々ありますが、このように寿司の単位「貫」は寿司の大きさを表現したもので、個数を表現したものではないのです。

ですから「一貫とは、一個か二個か?」が店によってまちまちなのです。混乱を避けるため、「貫」での表記は用いず、全て「個」での表記としている店もあります。近年、話題となった書物「数え方の辞典」では、1貫は2個を原則として、慣用で1個と記述しています。これは、昔、先輩の職人さんから聞いた話ですが、かつて「貫」という数え方は、寿司職人が使う隠語で、一般人はあまり使わなかったそうです。 

今でも俗説を信じて2個を1貫と言っている人が存在するのは確かであり、混乱する場面があります。逆に、寿司屋では2貫単位で出すので、寿司屋のカウンターで「ひとつ」と言った場合は、「2貫」を指すことになるケースもありますね。(あくまで、状況からそうなるということであり、「ひとつ=2貫」という定義があるという話ではありません)

2貫づつ出すようになったのは戦後になってから戦前は1カンしか握らなかったと言われていますから…。2貫出しが当たり前になったのは、お客さんの要望というより、店側の都合もあり手間も省けるという理由からと、また、ネタ重視の風潮が支配的になり、握り1貫の寿司飯の量が少なくなったことも関係しているのです。2個で1貫と数えるという説もありますが、その根拠は不明であり、信憑性は怪しいというのが現在の定説です。   
 
2貫で1セットとする出し方は寿司屋の慣習によるもので、今ではほとんどのお店が2貫単位で出てくるのが普通ですが、なぜそうなったかという事は次の機会にお話します。


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Posted by きくいち at 15:45│Comments(0)菊一本店

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