2019年12月04日
女子プロゴルフ界の「厳しすぎる現実」
渋野日向子ら若手選手の、大活躍のウラで有名女子ゴルファーたちのツアー引退が相次いでいるようです
いずれも傍から見れば「まだまだやれる」という選手たちばかりなのに
競技レベル向上の陰にある彼女たちの苦悩と葛藤とは
そんな記事を見ましたので紹介しておきます
「これまではツアーが終わってオフになっても「また来年のために」という思いが消えませんでした。でも、いまはそれがない。練習もしなくていいし、トレーニングをしなくてもいい。不思議だけど、気持ちはずいぶん楽になりました。私は、ボロボロになった姿を見せて「かわいそう」と思われながら辞めるのは嫌だった。そういう意味では、応援してくださった方々に最後まで元気に笑顔でゴルフをしている姿を見せることができて、満足しています」女子プロゴルファーの一ノ瀬優希(31歳)は、こう語っていたと…

ツアー優勝3回、かつては賞金ランキング13位('13年)まで上り詰めた一ノ瀬は、11月24日のエリエールレディスオープンを最後に、ツアーの第一線から退きました。「14年に鎖骨のあたりを痛め、そこから毎年のようにケガが続きました。20代のときは、たとえ痛みはあって『少しでも早く治そう』と思えました。でも、年を重ねるにつれて治りも悪くなり『試合に出たい』という気持ちが少しずつ薄くなってきた。そんななか、今年の2月に階段で滑って、左肩を骨折してしまいました。これで、気持ちがポキッと折れた気がします」と…

一ノ瀬だけではありません。大江香織(29歳・優勝3回)、佐伯三貴(35歳・同7回)、そして、'09年に賞金ランキング2位となり、女子ゴルフ界での将来を嘱望されていた諸見里しのぶ(33歳・同9回)も…今年は、こうした30歳前後で実績ある選手たちの「ツアー引退宣言」が相次いでいます。
いま、女子ゴルフ界には、かつてないほどに注目が集まっています。最終戦まで熾烈な賞金王争いを繰り広げた渋野日向子(21歳)や鈴木愛(25歳)を筆頭に、実力派の若手が台頭しているためです。とりわけ、宮里藍や横峯さくらにあこがれて、幼い頃からゴルフに没頭してきた渋野や畑岡奈紗(20歳)、小祝さくら(21歳)ら「黄金世代」は競技人口も多く、女子ゴルフ全体の競技レベルは飛躍的に向上しています

ですが、いくら選手の数が増えたとしても、トーナメントに出場できる人数に大きな変化はありません。新たにイスを手にする選手がいれば、そこからはじき出される選手たちがいる。その多くは、30歳前後の「若すぎるベテラン」たちなのです
昔と違って、ジュニアのときから世界レベルの経験をしてきている選手たちがトーナメントに出ることによって、アマチュアゴルファーでもポンと優勝できる時代になってきたからです
選手たちはそうした若手の追い上げを目の当たりにしているから、逆に自分たちの力がどれだけ通用するのかという限界も見えやすくなっているようです。そして幼いころからプレーをしてきても、プロテストに合格してプロゴルファーを名乗れるのはごく一握り。今季からはこのプロテストに合格しなければ原則的にツアーには参加できないように制度変更がなされたのは記憶に新しいことです。
三浦桃香(20歳)が挑戦して、3年連続の不合格となり話題を呼んだほか、渋野も一度不合格になった経験があります。さらに、やっとの思いでプロになったとしても、長きにわたりシード権を維持し、第一線で食べていくことのできる選手は数えるほどしかいないのです。
国内で行われる女子ツアーのトーナメントは全36試合(今年度)。シード権を得られる50人の選手は無条件でほぼ全試合に出場し、予選を突破するだけで、賞金を得ることができます。逆に、シード権を持たない選手は予選会でよほどの好成績を残すか、スポンサー推薦などの特殊な条件を満たさなければ、LPGAのレギュラーツアーに出場することができないのです。

シード圏内から陥落した選手は、出場権をめぐる最後の戦いである「クォリファイングトーナメント」(通称・QT)に挑戦することになります。その戦いは驚くほどに苛烈です。基本的には11月下旬のファースト、12月上旬のファイナルという2つのステージを勝ち抜く必要があり、敗者復活へのラストチャンスとなるQTに挑む選手たちは、文字通り「死に者狂い」になるのです。一般ギャラリーの観戦が許されない会場では、ふだんテレビで見るような女子ゴルフの華やかさとはまったく異なるピリッとした空気が流れ「なかには、敗退が決まった瞬間に膝から崩れ落ちてわんわん泣いてしまう選手もいて、本当に不憫です」
このQTでも結果を出せなかった選手たちは、翌シーズンは下部の「ステップアップツアー」で経験を積みながら、出場可能なレギュラーツアーの試合を探すことになりますが、ただ、一度落ちるとなかなか這い上がってくるのが難しい現実があります。
たとえば、藤田光里選手(25歳)、川岸史果選手(25歳)といった期待の若手たちも、ステップアップで1勝ずつしたけれど、レギュラーでは成績を出せず、シード権を取り戻すことはできていません。やっぱり、ステップアップとレギュラーでは、試合の雰囲気からレベルまでまったく違うのです
幼い頃からゴルフ一筋に打ち込み、やっとの思いでプロテストに合格しても、トーナメントという終わりなきサバイバルを勝ち続けなければ、コンスタントにツアーに出ることすらままならない。そんな日々を何年も耐え忍ぶ女子ゴルファーたちにかかる身体的な負担は、計り知れません。かくして20代後半になると、一ノ瀬のようにケガに泣くケースが後を絶たなくなるのです
実際、19年度にシード権を獲得した女子選手の平均年齢は26・4歳。男子の49・5歳とは大きな開きがある。男子選手ならこれから脂が乗ってくるという年齢の30代は、女子の世界では「現役晩年」にあたるのです。
女子選手にケガが多い理由を「用具の進化も一因なのではないか」と…
「昔だったら、打球の距離やスピードがある選手というのは見た目から明らかでした。でも、最新の道具だと、みんなが同じように飛ばせるようになっている。裏を返せば、手首や膝といった身体の構造に、より大きな負荷がかかっている部分があるのだと…」
くわえて、一ノ瀬は女子ゴルファーならではの難しい現実を口にする
「同世代の選手とよく話すのですが、20代の後半くらいから、練習や試合の疲れがなかなか抜けにくくなってくるんです。それに、遠征ばかりの日々を過ごしていると、『結婚はどうしよう』とか、『いつまで子供を作れるのか』とか、そういうことも頭をもたげてくる。
私が20代の頃も、いまの若い子と同じように同世代の選手がいっぱいいました。でも、仲の良かった選手たちも一人、また一人といなくなっていった。

『31歳は早いよ』と言っていただけることは多いのですが、大きくない身体でここまで続けられて、自分では十分だと思っています」エリエールレディス予選の第2ラウンド、プロとしての最終ラウンドをパーで締めくくった諸見里のもとに、同期の上田桃子(33歳)らが駆け寄り、大きな花束を手渡した。諸見里の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた
「いまも、トーナメントに出場したいという情熱はあるんです。予選を通過できなかったときに悔しいと感じる部分も残っている。でも、コース難易度と予選通過スコアが上がるなか、情熱や悔しさのバランスがとれなくなった。それがいつしか『もう一線を退いてもいいのかな』という決断につながったのかな、と…」沖縄生まれの諸見里は、父がタクシーの運転手などをしながら遠征費を捻出し、血の滲むような練習を重ねてプロ入り。人一倍のハングリー精神を武器に、一気にトッププロへと上り詰めました。09年には当時史上最年少の23歳59日でのLPGAメジャー3勝を達成、獲得賞金も1億6526万2708円と、横峯さくらに次ぐランキング第2位となったのです。
日本の女子ゴルフの次代を担う選手として期待されていた諸見里のプレーに陰りがみえるようになったのは、13年シーズンの途中で左脇腹の痛みを感じてからです。「普段は痛まないのに、いざプレーするとズキズキと痛むんです。いろいろな病院を紹介してもらって、CTやMRIといった検査も幾度となく受けましたが、原因がわからなかった。『まだ20代なのに、なんでこんな目に遭わなければいけないの
』というもどかしさがありました」ようやく判明した病名は「肋軟骨痛」。肋骨と胸骨の関節に起きる炎症で、医者からは「完治は不可能」と宣告された
「様々な治療を受けるたびに『今度こそ』と期待して、それでもコースに出てみるとやっぱり痛い。納得できるトレーニングは最後までできなかった。周囲の方も状況を理解してくれているぶん、いっそう辛かったです」
騙し騙し、コースに立つのがやっとの日々。いつしか諸見里のゴルフは、他の選手たちとではなく、自分の痛みとの絶え間のない戦いへと変わっていった。そんな諸見里の心の支えになっていたのが、前出の上田だった。
「桃子は、身体のことや精神的な不安を、一番腹を割って話すことができた仲間でした。思えば、若い頃の私はかなり尖っていて、『自分のプレーが一番大事。強ければそれで良し』と信じてやまなかった。18歳からしばらくの間は、桃子ともほぼ口を利かなかったんです。ライバルなのだから気安く接してはいけないのだと思い込んでいた。それが、ケガに悩むようになってから、同世代の仲間のありがたさや優しさに気づくことができた。先が見えない治療の日々は辛かったけれど、勝つこと以外の喜びを知ることができた自分は、幸せ者だったと思います」長く厳しい道のりを歩き続けてきた彼女たちは、それぞれ戦いに自分なりの区切りをつけて、フェアウェイを去っていくのです


競技レベル向上の陰にある彼女たちの苦悩と葛藤とは


「これまではツアーが終わってオフになっても「また来年のために」という思いが消えませんでした。でも、いまはそれがない。練習もしなくていいし、トレーニングをしなくてもいい。不思議だけど、気持ちはずいぶん楽になりました。私は、ボロボロになった姿を見せて「かわいそう」と思われながら辞めるのは嫌だった。そういう意味では、応援してくださった方々に最後まで元気に笑顔でゴルフをしている姿を見せることができて、満足しています」女子プロゴルファーの一ノ瀬優希(31歳)は、こう語っていたと…


ツアー優勝3回、かつては賞金ランキング13位('13年)まで上り詰めた一ノ瀬は、11月24日のエリエールレディスオープンを最後に、ツアーの第一線から退きました。「14年に鎖骨のあたりを痛め、そこから毎年のようにケガが続きました。20代のときは、たとえ痛みはあって『少しでも早く治そう』と思えました。でも、年を重ねるにつれて治りも悪くなり『試合に出たい』という気持ちが少しずつ薄くなってきた。そんななか、今年の2月に階段で滑って、左肩を骨折してしまいました。これで、気持ちがポキッと折れた気がします」と…


一ノ瀬だけではありません。大江香織(29歳・優勝3回)、佐伯三貴(35歳・同7回)、そして、'09年に賞金ランキング2位となり、女子ゴルフ界での将来を嘱望されていた諸見里しのぶ(33歳・同9回)も…今年は、こうした30歳前後で実績ある選手たちの「ツアー引退宣言」が相次いでいます。
いま、女子ゴルフ界には、かつてないほどに注目が集まっています。最終戦まで熾烈な賞金王争いを繰り広げた渋野日向子(21歳)や鈴木愛(25歳)を筆頭に、実力派の若手が台頭しているためです。とりわけ、宮里藍や横峯さくらにあこがれて、幼い頃からゴルフに没頭してきた渋野や畑岡奈紗(20歳)、小祝さくら(21歳)ら「黄金世代」は競技人口も多く、女子ゴルフ全体の競技レベルは飛躍的に向上しています


ですが、いくら選手の数が増えたとしても、トーナメントに出場できる人数に大きな変化はありません。新たにイスを手にする選手がいれば、そこからはじき出される選手たちがいる。その多くは、30歳前後の「若すぎるベテラン」たちなのです


選手たちはそうした若手の追い上げを目の当たりにしているから、逆に自分たちの力がどれだけ通用するのかという限界も見えやすくなっているようです。そして幼いころからプレーをしてきても、プロテストに合格してプロゴルファーを名乗れるのはごく一握り。今季からはこのプロテストに合格しなければ原則的にツアーには参加できないように制度変更がなされたのは記憶に新しいことです。
三浦桃香(20歳)が挑戦して、3年連続の不合格となり話題を呼んだほか、渋野も一度不合格になった経験があります。さらに、やっとの思いでプロになったとしても、長きにわたりシード権を維持し、第一線で食べていくことのできる選手は数えるほどしかいないのです。
国内で行われる女子ツアーのトーナメントは全36試合(今年度)。シード権を得られる50人の選手は無条件でほぼ全試合に出場し、予選を突破するだけで、賞金を得ることができます。逆に、シード権を持たない選手は予選会でよほどの好成績を残すか、スポンサー推薦などの特殊な条件を満たさなければ、LPGAのレギュラーツアーに出場することができないのです。

シード圏内から陥落した選手は、出場権をめぐる最後の戦いである「クォリファイングトーナメント」(通称・QT)に挑戦することになります。その戦いは驚くほどに苛烈です。基本的には11月下旬のファースト、12月上旬のファイナルという2つのステージを勝ち抜く必要があり、敗者復活へのラストチャンスとなるQTに挑む選手たちは、文字通り「死に者狂い」になるのです。一般ギャラリーの観戦が許されない会場では、ふだんテレビで見るような女子ゴルフの華やかさとはまったく異なるピリッとした空気が流れ「なかには、敗退が決まった瞬間に膝から崩れ落ちてわんわん泣いてしまう選手もいて、本当に不憫です」

このQTでも結果を出せなかった選手たちは、翌シーズンは下部の「ステップアップツアー」で経験を積みながら、出場可能なレギュラーツアーの試合を探すことになりますが、ただ、一度落ちるとなかなか這い上がってくるのが難しい現実があります。
たとえば、藤田光里選手(25歳)、川岸史果選手(25歳)といった期待の若手たちも、ステップアップで1勝ずつしたけれど、レギュラーでは成績を出せず、シード権を取り戻すことはできていません。やっぱり、ステップアップとレギュラーでは、試合の雰囲気からレベルまでまったく違うのです

幼い頃からゴルフ一筋に打ち込み、やっとの思いでプロテストに合格しても、トーナメントという終わりなきサバイバルを勝ち続けなければ、コンスタントにツアーに出ることすらままならない。そんな日々を何年も耐え忍ぶ女子ゴルファーたちにかかる身体的な負担は、計り知れません。かくして20代後半になると、一ノ瀬のようにケガに泣くケースが後を絶たなくなるのです

実際、19年度にシード権を獲得した女子選手の平均年齢は26・4歳。男子の49・5歳とは大きな開きがある。男子選手ならこれから脂が乗ってくるという年齢の30代は、女子の世界では「現役晩年」にあたるのです。
女子選手にケガが多い理由を「用具の進化も一因なのではないか」と…

「昔だったら、打球の距離やスピードがある選手というのは見た目から明らかでした。でも、最新の道具だと、みんなが同じように飛ばせるようになっている。裏を返せば、手首や膝といった身体の構造に、より大きな負荷がかかっている部分があるのだと…」
くわえて、一ノ瀬は女子ゴルファーならではの難しい現実を口にする

私が20代の頃も、いまの若い子と同じように同世代の選手がいっぱいいました。でも、仲の良かった選手たちも一人、また一人といなくなっていった。

『31歳は早いよ』と言っていただけることは多いのですが、大きくない身体でここまで続けられて、自分では十分だと思っています」エリエールレディス予選の第2ラウンド、プロとしての最終ラウンドをパーで締めくくった諸見里のもとに、同期の上田桃子(33歳)らが駆け寄り、大きな花束を手渡した。諸見里の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた

「いまも、トーナメントに出場したいという情熱はあるんです。予選を通過できなかったときに悔しいと感じる部分も残っている。でも、コース難易度と予選通過スコアが上がるなか、情熱や悔しさのバランスがとれなくなった。それがいつしか『もう一線を退いてもいいのかな』という決断につながったのかな、と…」沖縄生まれの諸見里は、父がタクシーの運転手などをしながら遠征費を捻出し、血の滲むような練習を重ねてプロ入り。人一倍のハングリー精神を武器に、一気にトッププロへと上り詰めました。09年には当時史上最年少の23歳59日でのLPGAメジャー3勝を達成、獲得賞金も1億6526万2708円と、横峯さくらに次ぐランキング第2位となったのです。
日本の女子ゴルフの次代を担う選手として期待されていた諸見里のプレーに陰りがみえるようになったのは、13年シーズンの途中で左脇腹の痛みを感じてからです。「普段は痛まないのに、いざプレーするとズキズキと痛むんです。いろいろな病院を紹介してもらって、CTやMRIといった検査も幾度となく受けましたが、原因がわからなかった。『まだ20代なのに、なんでこんな目に遭わなければいけないの


騙し騙し、コースに立つのがやっとの日々。いつしか諸見里のゴルフは、他の選手たちとではなく、自分の痛みとの絶え間のない戦いへと変わっていった。そんな諸見里の心の支えになっていたのが、前出の上田だった。
「桃子は、身体のことや精神的な不安を、一番腹を割って話すことができた仲間でした。思えば、若い頃の私はかなり尖っていて、『自分のプレーが一番大事。強ければそれで良し』と信じてやまなかった。18歳からしばらくの間は、桃子ともほぼ口を利かなかったんです。ライバルなのだから気安く接してはいけないのだと思い込んでいた。それが、ケガに悩むようになってから、同世代の仲間のありがたさや優しさに気づくことができた。先が見えない治療の日々は辛かったけれど、勝つこと以外の喜びを知ることができた自分は、幸せ者だったと思います」長く厳しい道のりを歩き続けてきた彼女たちは、それぞれ戦いに自分なりの区切りをつけて、フェアウェイを去っていくのです

Posted by きくいち at 16:18│Comments(0)
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