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2016年04月11日

ホタルイカの身投げと掬い

富山のホタルイカは、富山湾の春のシンボルの一つです。
真っ暗な夜の富山湾で、たくさんのホタルイカが青白く発光する様子は、他の地域では見られない、とても幻想的な光景です。このホタルイカは、日本各地でも生息しているところがあり、深海約200~600mあたりで活動していますが、海岸近くまでやってくるのは全国でも富山県だけです。

富山湾のホタルイカは、春先の3 ~5月ごろにかけて産卵のために海岸近くまでやってきます。ホタルイカの寿命は約1年なので、この時期に生まれたホタルイカが大きくなって、1年後に同じ場所に帰ってきて産卵して一生を終えます。このホタルイカの産卵場所としては、富山県滑川市が有名で、漁獲量も多いです。

ホタルイカの身投げと掬い

ところで、この「ホタルイカ」という名前は、文字通りホタルのように青白く光ることからつけられていますが、古くから富山では「コイカ」や「マツイカ」と呼ばれていました。しかし、明治38年に東京帝国大学理科大学(現在の東京大学理学部)の渡瀬庄三郎博士が、発光する生物の研究を進めている中で「ホタルイカ」と名前をつけたことから、こちらの名前が広く使われるようになりました。

これが日本におけるホタルイカ研究の始まりで、その後、様々な研究がされていますが、この100年以上も前の渡瀬博士の研究が大変詳しかったので、ホタルイカの基本的な情報はこの時点ですでにかなり確立されています。ただ、ホタルイカ自体は有名ですが、その生態について分かっている事は、意外と少なくて、実際のところホタルイカは、まだまだ謎が多く、不思議な生物なのです。

「富山県のさかな」として、「ぶり」「白えび」「ホタルイカ」の3つが指定されていますが、キャッチフレーズは、ブリが「富山湾の王者」、白えびが「富山湾の宝石」というのに対し、謎が多いホタルイカは「富山湾の神秘」とされています。

ホタルイカの身投げと掬い

ホタルイカの旬の時期はおよそ3~5月の間です。ホタルイカの漁もこの期間に行われています。 漁は、この時期に、普段は深海で生活しているホタルイカが産卵のために海岸付近へ一気に集まってくるところを狙います。かなり海岸近くまでくるので、ホタルイカの旬の時期になると、地元では堤防や岸壁にバケツをもって「ホタルイカすくい」にいく人も結構いたりします。

冷凍技術や加工技術の発達によって、たしかに加工品などは一年を通して手に入りますが、新鮮な刺身などはこの時期しか手に入りませんし、たとえ釜揚げ(ゆでたもの)であっても新鮮なものはやはり違います。また、富山湾のホタルイカ漁といえば、滑川市が有名です。他地域のものに比べて富山産のホタルイカは、食べた時のプリプリ感はもちろん、見た目からしてすでにまるまると太っていて全然違います。富山滑川産のホタルイカ」は業界でも別格の扱いをうけています。

ホタルイカの身投げと掬い

ホタルイカは富山湾だけでなく、他の地域でも水揚げされて出荷されていますが、なぜ、この狭い日本で、同じホタルイカなのに大きな違いがあるのでしょうか…?

これには、ホタルイカで有名な滑川沖だけでなく富山湾全体にいえることですが、沿岸から約10㎞くらいで水深1,000mに達するところもあるくらい、富山湾の深海部分は深く、そして急激な高低差があります。このため、水深200m以下を住みかとするホタルイカのような生物にとって、最適な環境でありながら、産卵場所である海岸部までの距離が近くなります。雌は、産卵するためにたっぷりと脂肪や栄養をたくわえますが、産卵場所にたどり着くまでにそれらをかなり消費します。つまり、産卵場所が近いということは、雌が完全にやせ細ってしまう前に沿岸へとやってくることになります。 富山のホタルイカ漁は沿岸部で行われるため、この「肉厚でぷっくりしている」状態のまま水揚げされるというわけです。

丸々と太った雌のホタルイカを水揚げすることができることに関係していますが、さらにそのおいしい雌のみを捕獲することができるのが富山の特徴です。それは「定置網」だからです。ホタルイカ用の定置網は沿岸からわりと近いところに設置するため、産卵にやってきた太った雌だけを捕獲することができるのです。群れをなして産卵にやってくる富山湾の一部の沿岸地域でのみ成立する漁法です。

勿論、ホタルイカには雄もいますが、沿岸まで来ることはなく、ほとんど深海で死んでしまいます。 富山湾以外の地域でホタルイカをとるには、底曳網(そこびきあみ)で海底を根こそぎ水揚げするのが主流です。そのため、やせた雄や、まだ太りきっていない雌が水揚げされるので、富山湾のプリプリの大きなホタルイカと比べると、どうしても小さくて細いものになります。

さらには、富山湾の定置網は産卵後に沖へ戻ろうとする雌のみを捕獲できるような場所に仕掛けがあるので、たくさん水揚げしていてもホタルイカの乱獲につながるような悪影響はまったくありません。このように、おいしい産卵期の、丸々とした雌のみでほぼ100%水揚げできる富山湾は、最高級の品質と漁獲量を維持できるのです。

ホタルイカの身投げと掬い

ホタルイカの身投げは、産卵のために海岸近くまで来ている、または産卵を終えたホタルイカが波によって海岸に打ち上げられることを言います。 海岸線の砂浜に延々と続く、身投げしたホタルイカの青白い光がとても幻想的で、初めて見る人はきっと言葉を失うくらいの神秘的な光景ですね。この、ホタルイカの身投げは、ホタルイカが大量に海岸へおしよせる富山湾ならではの現象です。

ところが、この「ホタルイカの身投げ」は、その旬の時期である3~5月くらいにいつでも見れるというわけではないので、その神秘性をさらに強めているのです。色々な説があり、なんといっても自然のことですので100パーセント確実という条件はありませんが、 新月前後(月の見えない夜)の日というのが、身投げの確率が高いそうです。

理由は、ホタルイカは月の光を目印に、自分の位置を把握しているらしく、月明かりのない新月の夜は、方向を見失って、住みかである深海へ戻ることができないから、といわれています。ちなみに、この打ち上げられたホタルイカは、砂を大量にかんでいるため、食べるのはとても無理です。

そのため、ホタルイカの身投げが起こっている日は、砂浜に打ち上げられる前に、「ホタルイカすくい」といって、海に少し入って行って捕獲したり、付近の堤防などから捕まえたりしている人がいます。

ホタルイカの身投げと掬い

ホタルイカすくい(掬い)は、文字通りホタルイカをすくうことですが、プロの漁業の専門用語ではなく、一般の人がホタルイカをとりに行くことをいいます。 知らない人にとっては 「あの有名な富山のホタルイカを一般人がとっているのか?」と思うかもしれません。

もちろん、市場に出回っているホタルイカは、漁師がホタルイカ漁の定置網で捕獲したものです。それに対し、この、ホタルイカすくいというのは、ホタルイカが産卵のために海岸付近で漂っているのを、普通の一般人が、タモ網で捕獲するという「レジャー」感覚のものです。 魚釣りと同じですね。

ホタルイカの産卵時期である3月~5月ごろにかけて、ホタルイカのまち・滑川を中心に、富山の海岸では、夜になるとタモ網とバケツとライトを持った人たちが、ホタルイカをとりに集まってくることがあります。

ホタルイカすくいの方法は、簡単にいうと、海をライトで照らして、赤茶色にみえるホタルイカを見つけて、タモ網で捕獲するのです。ただし、このホタルイカは、いつでもたくさんとれるわけではありません。

たしかにこのホタルイカの旬の時期になると、まばらであっても、波に漂っているホタルイカがちらほらと見えたりします。しかし、このホタルイカすくいの時期の中でもベストな日は、いわゆる「ホタルイカの身投げ」が起こっているときで、それも、シーズン中である3月~5月くらいの間で数回あるかないかという感じです。

ただし、夜の間、ずっといるわけではなく、ある時間になると突然、大量にやってきます。ですから、日も時間も、正確にはわからない、というのが本当のところです。しかし、たくさんのホタルイカの身投げ、とまでいかないような日でも、ホタルイカの身投げの条件に近い日などは、結構ホタルイカが海岸付近へよって来たりします。

ホタルイカすくいの時期や場所などのポイント、それらに関する情報などは、地元の釣具屋さんが一番詳しいかもしれません。そうした釣具屋さんには、ホタルイカすくいの道具一式がセットで売られていることもあるようです。



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