2017年10月01日
焼いて食べるだけでは芸がない豊かな江戸の「松茸料理」
今日から10月…暦の上では秋
秋と言えば真っ先の浮かぶのが松茸です
国産松茸はと言えば、もはや「高根の花」安い輸入物が大量に入ってきて、値を下げるかと思いきや、逆に国産品との違いが顕著になり、益々高値を呼んだように思います。けれどこの松茸、一昔前は椎茸より安価だったということをご存知でしょうか
私が子供の頃でさえ、両親から「肉を買うお金がないから松茸のすき焼きを食べていた」という話を聞き、羨ましく思った記憶があります。実はこの話を聞いた時、我が家の食卓では「はりはり鍋」(鯨肉と水菜だけのすきやき)がぐつぐつと煮えていたのですが、当時鯨肉が好きではなかった私は、水菜ばかりをつつきながら、「絶対松茸の方がいいのに…」としょぼくれたものです
今や鯨も松茸も、牛肉を遥かにしのぐ高級食材
松茸の食べ方といえば、やはり「焼き松茸」が王道で、すきやきで食べるのはもったいないと思われがちですが、牛肉ではなく鴨の肉を使えば、鴨の上品な脂が松茸の香りを閉じ込め、松茸の香りが鴨に移り、相乗効果でえも言われぬ美味しさが生まれますまた、残った出汁は捨ててしまわず、そうめんを入れてにゅうめんにしたり、かけ蕎麦のつゆとしても使えます
日本人の松茸好きは近年に始まったことではありません。
すでに弥生時代には食べられていた痕跡があるそうで、平安貴族たちは、秋になると松茸狩りを楽しみ、和歌にも多く詠まれています「香り松茸、味しめじ」と言い伝えられているように、松茸は香りが命です。ご承知のように、香りというものは、時間とともに抜けていくものなので、採ったその場で焼いて食べるのが最高の贅沢というわけです。
輸入物の松茸が、どうしても国産品に追いつけないのは、運ばれてくる時間に問題があります。アメリカ・カナダ産の松茸は、見た目でも分かるように、日本の松茸とは種類が違いますが、中国・韓国産のものはほぼ同じものです。よって産地でいただくと、安価な上に、国産松茸並みの香りが楽しめます
憧れの松茸のすきやきも夢ではないはずなのですが、逆に現地では、日本ほど松茸をありがたがってはいないため、専門店を作るには至らないのでしょう。日本人向けに、「松茸づくし」が堪能できる中国ツアーなどあれば、お客様が集まるのではないかと思われるのですが…
さて、諸外国では全くありがたがられていないあの香り。日本人が愛してやまない松茸の香りが、欧米、特にヨーロッパでは忌み嫌われているとか…
海外では「革靴を履いた後の靴下の臭い」「何日もお風呂に入っていない人の臭い」と、さんざんな評価だそうです確かに、傷んでジクジクしてくると、そのような臭いがしないとも言いきれませんが、新鮮な松茸の芳香をそう言われるのは心外ですね
松茸の香り成分の正体は、マツタケオールとメチルシンナメートです。実はマツタケオールは、日本の食卓には欠かせない、味噌や醤油といった大豆食品にも含まれている成分なのです。日本人の松茸好きの理由は、ここにあるのかもしれません。
江戸時代、松茸狩りは庶民の間でも盛んに行われていて、シーズンになると京や大坂で市が立ったほどですが、意外なことに、江戸の町ではたいして関心が持たれてはいませんでした。理由は、江戸周辺の山々では松茸が採れなかったため、新鮮な松茸が入手困難だったからです。狂歌や川柳に度々登場することから、江戸に馴染んだ食材に思われがちですが、歌に詠まれるのは、もっぱらその形を揶揄した艶もの系のみで、ありがたがっている様子は伺えません。つまり江戸っ子で、本当の松茸の美味しさを知っている人は多くはなく「上方の人間は、なぜこんなものをありがたがるのか」という感じだったようです
それでも季節感を重んじる料理茶屋では、秋になると松茸料理を出しましたが、上方から塩漬けで運ばれてきた松茸の塩を抜き、煮物や汁物として調理したもので、香りはほとんど残っていなかったと言います
輸入物を含め、香りが薄い松茸の香りを立て、美味しくたべるには、蒸し焼きにするのが一番です
囲炉裏のある農家などでは、松茸を濡らした和紙に包み、灰の中に入れて蒸し焼きにしたものを、醤油や柚子味噌で食べたそうです。今なら、濡らしたキッチンペーパーにくるんでホットプレートの上に乗せてじっくりと焼くか、濡らしたキッチンペーパーの上からさらにラップをかけて、電子レンジで2~3分加熱してもです。
収穫の最盛期には、12000トンもの流通があったという松茸。ではなぜ、松茸はこれほど高価になってしまったのでしょう
一つには、松茸は天然ものしか流通していないからだと言われています。近年、人工栽培に成功したという話もチラホラと聞きますが、まだまだ流通ルートに乗るには至っていないようです。なぜ人工栽培が難しいかというと、松茸は菌根菌と呼ばれる、生きた木にしか生息しない菌で育つキノコだからです
椎茸のように、死んだ木につき、木から養分を一方的に吸収する腐朽菌《ふきゅうきん》で育つキノコならば、丸太に菌を植え付けるだけなので、素人でも育てることができます。しかし、松茸が好むのは生きている木、しかも激減しているアカマツの木で、ライバルとなるキノコも多く、なかなか定着するに至らない上、定着したとしても育つのに5年もかかります。
また、ガスや電気の普及で、山に薪や松の葉を集めに行く必要がなくなったため、山が腐葉土に覆われ、肥沃な土地では他のキノコに負けてしまって、繁殖能力の低い松茸は育ちません。つまり松茸とは、イメージに反して、奥手で成長の遅い、ひ弱なキノコなのです。
入手した際は、これらのことを鑑み、大切に食べてあげましょうもしもすぐに食べない時は、汚れをぬぐい取った松茸を少し湿らせたキッチンぺーパーでくるみ、さらにアルミホイルで包んで冷凍すれば、土瓶蒸しや松茸御飯には十分使える状態で保存できます
秋と言えば真っ先の浮かぶのが松茸です
国産松茸はと言えば、もはや「高根の花」安い輸入物が大量に入ってきて、値を下げるかと思いきや、逆に国産品との違いが顕著になり、益々高値を呼んだように思います。けれどこの松茸、一昔前は椎茸より安価だったということをご存知でしょうか
私が子供の頃でさえ、両親から「肉を買うお金がないから松茸のすき焼きを食べていた」という話を聞き、羨ましく思った記憶があります。実はこの話を聞いた時、我が家の食卓では「はりはり鍋」(鯨肉と水菜だけのすきやき)がぐつぐつと煮えていたのですが、当時鯨肉が好きではなかった私は、水菜ばかりをつつきながら、「絶対松茸の方がいいのに…」としょぼくれたものです
今や鯨も松茸も、牛肉を遥かにしのぐ高級食材
松茸の食べ方といえば、やはり「焼き松茸」が王道で、すきやきで食べるのはもったいないと思われがちですが、牛肉ではなく鴨の肉を使えば、鴨の上品な脂が松茸の香りを閉じ込め、松茸の香りが鴨に移り、相乗効果でえも言われぬ美味しさが生まれますまた、残った出汁は捨ててしまわず、そうめんを入れてにゅうめんにしたり、かけ蕎麦のつゆとしても使えます
日本人の松茸好きは近年に始まったことではありません。
すでに弥生時代には食べられていた痕跡があるそうで、平安貴族たちは、秋になると松茸狩りを楽しみ、和歌にも多く詠まれています「香り松茸、味しめじ」と言い伝えられているように、松茸は香りが命です。ご承知のように、香りというものは、時間とともに抜けていくものなので、採ったその場で焼いて食べるのが最高の贅沢というわけです。
輸入物の松茸が、どうしても国産品に追いつけないのは、運ばれてくる時間に問題があります。アメリカ・カナダ産の松茸は、見た目でも分かるように、日本の松茸とは種類が違いますが、中国・韓国産のものはほぼ同じものです。よって産地でいただくと、安価な上に、国産松茸並みの香りが楽しめます
憧れの松茸のすきやきも夢ではないはずなのですが、逆に現地では、日本ほど松茸をありがたがってはいないため、専門店を作るには至らないのでしょう。日本人向けに、「松茸づくし」が堪能できる中国ツアーなどあれば、お客様が集まるのではないかと思われるのですが…
さて、諸外国では全くありがたがられていないあの香り。日本人が愛してやまない松茸の香りが、欧米、特にヨーロッパでは忌み嫌われているとか…
海外では「革靴を履いた後の靴下の臭い」「何日もお風呂に入っていない人の臭い」と、さんざんな評価だそうです確かに、傷んでジクジクしてくると、そのような臭いがしないとも言いきれませんが、新鮮な松茸の芳香をそう言われるのは心外ですね
松茸の香り成分の正体は、マツタケオールとメチルシンナメートです。実はマツタケオールは、日本の食卓には欠かせない、味噌や醤油といった大豆食品にも含まれている成分なのです。日本人の松茸好きの理由は、ここにあるのかもしれません。
江戸時代、松茸狩りは庶民の間でも盛んに行われていて、シーズンになると京や大坂で市が立ったほどですが、意外なことに、江戸の町ではたいして関心が持たれてはいませんでした。理由は、江戸周辺の山々では松茸が採れなかったため、新鮮な松茸が入手困難だったからです。狂歌や川柳に度々登場することから、江戸に馴染んだ食材に思われがちですが、歌に詠まれるのは、もっぱらその形を揶揄した艶もの系のみで、ありがたがっている様子は伺えません。つまり江戸っ子で、本当の松茸の美味しさを知っている人は多くはなく「上方の人間は、なぜこんなものをありがたがるのか」という感じだったようです
それでも季節感を重んじる料理茶屋では、秋になると松茸料理を出しましたが、上方から塩漬けで運ばれてきた松茸の塩を抜き、煮物や汁物として調理したもので、香りはほとんど残っていなかったと言います
輸入物を含め、香りが薄い松茸の香りを立て、美味しくたべるには、蒸し焼きにするのが一番です
囲炉裏のある農家などでは、松茸を濡らした和紙に包み、灰の中に入れて蒸し焼きにしたものを、醤油や柚子味噌で食べたそうです。今なら、濡らしたキッチンペーパーにくるんでホットプレートの上に乗せてじっくりと焼くか、濡らしたキッチンペーパーの上からさらにラップをかけて、電子レンジで2~3分加熱してもです。
収穫の最盛期には、12000トンもの流通があったという松茸。ではなぜ、松茸はこれほど高価になってしまったのでしょう
一つには、松茸は天然ものしか流通していないからだと言われています。近年、人工栽培に成功したという話もチラホラと聞きますが、まだまだ流通ルートに乗るには至っていないようです。なぜ人工栽培が難しいかというと、松茸は菌根菌と呼ばれる、生きた木にしか生息しない菌で育つキノコだからです
椎茸のように、死んだ木につき、木から養分を一方的に吸収する腐朽菌《ふきゅうきん》で育つキノコならば、丸太に菌を植え付けるだけなので、素人でも育てることができます。しかし、松茸が好むのは生きている木、しかも激減しているアカマツの木で、ライバルとなるキノコも多く、なかなか定着するに至らない上、定着したとしても育つのに5年もかかります。
また、ガスや電気の普及で、山に薪や松の葉を集めに行く必要がなくなったため、山が腐葉土に覆われ、肥沃な土地では他のキノコに負けてしまって、繁殖能力の低い松茸は育ちません。つまり松茸とは、イメージに反して、奥手で成長の遅い、ひ弱なキノコなのです。
入手した際は、これらのことを鑑み、大切に食べてあげましょうもしもすぐに食べない時は、汚れをぬぐい取った松茸を少し湿らせたキッチンぺーパーでくるみ、さらにアルミホイルで包んで冷凍すれば、土瓶蒸しや松茸御飯には十分使える状態で保存できます
Posted by きくいち at 10:11│Comments(0)
│季節の野菜と果実